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Passport for Pangaea(角川NEXT賞最終選考作品)~第1章・13

 ルーシーハウスを出た。一人になると悲しさと悔しさが胸に渦巻き、涙があふれそうになった。なんで学校に通えないのだろう。これまでは悔しい目にあっても仕方がないと諦めていた。しかし、戸籍がないことを知ったいまは、理不尽な状況は疑問でしかなかった。戸籍がないことと学校に通えないことは無関係ではないはずだ。なにか出生の秘密があるに違いない。
 知っているのは佳恵だけだ。
 しかし、戸籍がないとわかってから何度か訊ねたが、はぐらかされるばかりだった。なぜ教えてもらえないのか。
 むしゃくしゃしたままヴィーナスフォートの駐輪場へ戻ってきた。
 駐輪場には数台の自転車が停まっていたが、なぜか純香の白い自転車だけが倒されていた。強風が吹いているわけでもないので誰かがなにかの拍子に倒して直さなかったに違いない。
「なんなの、もう!」
 ルーシーハウスでの一件や照りつける真夏の陽射しも苛立ちを駆りたて、思わず隣のマウンテンバイクを爪先で蹴飛ばして八つ当たりした。マウンテンバイクはガシャンと悲鳴をあげて横向きに倒れた。
「こら! なにをしている!」
 背後から野太い声がした。振り返ると、半袖の制服姿の警備員が純香を睨みつけていた。「やばっ!」体から一瞬血の気が失せたが、すぐに背を向けて逃げだした。「待て!」警備員が追いかけてくる。警備員は五十歳くらいの細身の男だった。全力で走ったが、警備員も足は速く、表通りに出たところで腕を掴まれた。
「離してよ! 変態!」
「誰が変態だ。他人の自転車を蹴飛ばしておいて」
「あたしは悪くない」
「じゃあ誰が悪いんだ」
「知らないよ、そんなの」
「警備室へ来い。お母さんを呼びつけるぞ」
「やだ! 離して! 離さないと訴えるよ」
「なにを逆ギレしているんだ。いい加減にしろ」

テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学

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asagiri

Author:asagiri
日本人の名前のルーツを探ることで日本の歴史を違う角度から見ることができます。家系図づくりをしている人・一族のルーツの探し方がわからない人・祖先の古いお墓がある人はもちろん、自分の名字・姓・氏の由来を知りたい人、家紋や戸籍謄本(除籍謄本)に興味がある人、先祖が武士か農民か知りたい人、珍名・奇名など珍しい苗字を探している人、明治時代好きの人も読んでみてくださいね。家族や親戚との話のネタにもなります。他人の名字でも起源を調べると面白いことがたくさん出てきますよ。調べ尽くしたら苗字研究家に転職できるかも? 苗字の歴史って楽しいです。異説・新情報がありましたら教えてください。

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