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Passport for Pangaea(角川NEXT賞最終選考作品)~第1章・7

「すみません永野さん、わざわざ純香を送っていただいて」
「いえいえ。とんでもない」
 襖越しに佳恵の申し訳なさそうな声と永野の照れたような声が聞こえた。永野は純香に「結婚しよう」などと冗談ばかり言っているが、本当は佳恵に心を寄せているのを、純香は感じとっていた。その証拠に、女であれば誰でもかまわず舐めるような視線で胸や太股を見るのに、佳恵にはいやらしいまなざしを投げかけず、むしろキリッと顔を引き締める。佳恵は気づいていないようだが、学校へ行っていない純香の面倒をまめにみてくれるのも、佳恵の職場を探してくれたのも、永野に佳恵への想いがあるからに違いなかった。佳恵は永野にビールを振る舞っているらしく「今日も暑かったですね」「今夜も寝苦しそうですね」などと喋っている。そんなくだらない話をしていないで愛の語らいをすればいいのにと、もどかしくなる。漠然と、二人が結婚して永野が父親になるのも悪くはないと思っていた。
 気を紛らすため、ジーンズのポケットから「くまのプーさん」のストラップがついた携帯電話を取りだし、インターネットをやることにした。この携帯電話も去年の誕生日に永野からプレゼントされたものだった。ずいぶん前から携帯電話は欲しかったのだが、佳恵に頼んでも「必要ないでしょ」と買ってもらえなかった。すると話を聞いた永野がプレゼントしてくれた。純香はよろこんで小躍りした。佳恵は「どうもすみません」と頭を下げ、永野は「いえいえ、とんでもない」と照れたように笑っていた。以来、使用料も永野が払ってくれている。
 ブックマークの「@虹の部屋」を選択し、インターネットに接続した。部屋が真っ暗なので液晶ディスプレイが眩しいくらいだった。しばらくして画面に「@虹の部屋には一名が参加しています」と表示された。
 @虹の部屋は携帯電話対応のチャットルームだった。入室すると《武蔵:暇だー。誰か来ないか~》と表示された。書きこみは八時三十二分四十七秒となっていたので、三十分前のようだ。@虹の部屋にはいつも九時くらいにチャット仲間が集まって雑談するが、武蔵は早くから来ていたらしい。
 携帯電話のダイヤルボタンを親指で素早く押し、文章を入力した。
《すみか:こんちは~》
 何回か更新ボタンをクリックしていると、三分ほどして武蔵から返事が入った。
《武蔵:おす! 今日も暑かったな》
《すみか:ほんと。今夜も寝苦しいかもね》
《武蔵:まったくだ。エアコンつけなきゃ汗まみれになる》
《すみか:うん。あたしも部活をやってて汗びっしょりになった》
 @虹の部屋では女子中学生であると嘘をついていた。隣のクラスの男の子に片想いをしていて、成績は中の上、部活は硬式テニス部で、夏の都大会のメンバーに選ばれた。嘘がばれないようにインターネットに載っている同世代の女の子の日記を熟読し、純香の憧れを演じていた。

テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学

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asagiri

Author:asagiri
日本人の名前のルーツを探ることで日本の歴史を違う角度から見ることができます。家系図づくりをしている人・一族のルーツの探し方がわからない人・祖先の古いお墓がある人はもちろん、自分の名字・姓・氏の由来を知りたい人、家紋や戸籍謄本(除籍謄本)に興味がある人、先祖が武士か農民か知りたい人、珍名・奇名など珍しい苗字を探している人、明治時代好きの人も読んでみてくださいね。家族や親戚との話のネタにもなります。他人の名字でも起源を調べると面白いことがたくさん出てきますよ。調べ尽くしたら苗字研究家に転職できるかも? 苗字の歴史って楽しいです。異説・新情報がありましたら教えてください。

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