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Passport for Pangaea(角川NEXT賞最終選考作品)~第1章・6

 意を決して戸籍の話をすると、永野は声を上げて笑った。
「まあいいじゃないか。戸籍なんてなくたって死にゃあしない」
「ちっともよくないよ。あたし、自分が何者なのか、わからなくなっちゃってる。自分が自分じゃなくなったみたい」
「戸籍なんて役所にある紙切れだよ。気にすることはない。純香は純香だ」
「オッチャンは人ごとだと思っているから、そんな無責任なことが言えるんだよ」
「人ごとなもんか」
「なにか、知ってるの」
「まあな」
「教えてよ」
「駄目だ」
「どうして」
「純香のお母さんが説明してからじゃなきゃ、俺は話せない。それがものの順序だ」
「順序なんてどうでもいいじゃん」
「重要なことだよ」
 永野は退屈そうに顎の無精髭を引っこ抜いては、痛そうに顔を歪めている。本当に重要なことだと思っているのだろうか。
「実は戸籍のことなんてなにも知らないんじゃないの」
「なんで嘘をつかなくちゃいけないんだ」
「あたしをゆするため、とか」
「なるほど、その手があったか。教えてほしければ、俺と結婚するんだ」
「なんでそうなるの」
「独身の男と女なんだから、いいじゃないか。純香ももう大人なんだし。いっひっひ」
「やだやだ! 近寄るな、変態オヤジ!」
 永野が砲台跡からまた立ち上がり、ふざけて抱きつこうとしてきたので、純香は笑い声と悲鳴を上げながら夜の第三台場を逃げ回った。
 三十分ほどふざけあってから永野と二人で家に戻った。玄関のドアを開けるとダイニングテーブルの席に腰かけていた佳恵が「おかえり」と顔をあげた。表情は暗く、不安と心配が入り混じっているようだった。
 佳恵には頷いただけでなにも答えず、ダイニングを素通りして奥の和室へ入った。襖を閉じると電気のついていない和室は真っ暗になった。畳で仰向けに寝転がる。窓から外灯の青白い光が射しこみ、洋服ダンスや本棚を淡く照らしていた。

テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学

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asagiri

Author:asagiri
日本人の名前のルーツを探ることで日本の歴史を違う角度から見ることができます。家系図づくりをしている人・一族のルーツの探し方がわからない人・祖先の古いお墓がある人はもちろん、自分の名字・姓・氏の由来を知りたい人、家紋や戸籍謄本(除籍謄本)に興味がある人、先祖が武士か農民か知りたい人、珍名・奇名など珍しい苗字を探している人、明治時代好きの人も読んでみてくださいね。家族や親戚との話のネタにもなります。他人の名字でも起源を調べると面白いことがたくさん出てきますよ。調べ尽くしたら苗字研究家に転職できるかも? 苗字の歴史って楽しいです。異説・新情報がありましたら教えてください。

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