FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Passport for Pangaea(角川NEXT賞最終選考作品)~第1章・4

 永野は町内会の副会長で、佳恵にアパートや働き口を紹介してくれた恩人だった。人当たりがいいので純香も永野が好きだった。他に悩みを打ち明けられる友達もいなかったので小学校へ通えないことを相談すると、永野は大声で笑った。
「まあいいじゃないか。学校へ通わなくたって死にゃあしない」
「でも、お友達がほしいし」
「だったらうちの店へ遊びにおいで。毎朝来て、夕方になるまで遊んで、それから家へ帰ればいい。同い年の友達はちょっと難しいけど、純香の友達はたくさんできるぞ」
「学校へ行かないとお勉強もできないし」
「なら俺が教えてやるよ。オッチャンも頭はよくないけど、小学校で習うことくらいは教えられるだろう」
「でも……」
「あとは、なにが望みだ」
「お願いがひとつあるの」
「なんだ」
「お店へ遊びに行くとき、ランドセルを背負っていってもいい?」
「はっはっは。もちろんいいに決まってる。なんだったら、三つでも四つでも背負ってきていいぞ」
「そんなに背負ったら重いよ」
 永野が経営する店とは「鳥永」という小鳥屋だった。薄暗い店には金属製の籠が並び、中では文鳥、十姉妹、インコなどが羽根をばたつかせていた。店内にはひっきりなしに鳥の鳴き声が響いていた。純香は鳥たち一羽一羽に名前をつけ、全員と友達になった。餌や水を毎日取りかえ、籠や店内を掃除した。店が暇なときには永野に漢字や計算を教えてもらったし、店を手伝っているという理由で小遣いももらった。学校へ行けないことは普通じゃないかもしれないけど、普通じゃなくても楽しいことはたくさんあるんだ、と納得していた。
 しかし普通じゃないと苦労することもある。今回のパスポートがとれなかったことはいい例だった。砲台跡に座りこんだままため息をついた。
「やっぱりここだったか。なんだなんだ、死にそうなため息なんかつきやがって」
 不意に、暗闇から低い男の声がした。驚きに身をよじると、背後に永野が立っていた。

テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL



プロフィール

asagiri

Author:asagiri
日本人の名前のルーツを探ることで日本の歴史を違う角度から見ることができます。家系図づくりをしている人・一族のルーツの探し方がわからない人・祖先の古いお墓がある人はもちろん、自分の名字・姓・氏の由来を知りたい人、家紋や戸籍謄本(除籍謄本)に興味がある人、先祖が武士か農民か知りたい人、珍名・奇名など珍しい苗字を探している人、明治時代好きの人も読んでみてくださいね。家族や親戚との話のネタにもなります。他人の名字でも起源を調べると面白いことがたくさん出てきますよ。調べ尽くしたら苗字研究家に転職できるかも? 苗字の歴史って楽しいです。異説・新情報がありましたら教えてください。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。