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Passport for Pangaea(角川NEXT賞最終選考作品)~第1章・14

 警備員は純香の腕を引っぱって行こうとした。見かけよりも力が強く、振りほどけなかった。それでも掴まれていない方の手で警備員の手をもぎ離そうとした。
「離して!」
「聞きわけが悪いな。お前、どこの学校だ。中学生だろ」
 また、学校だ。
 体から力が抜けた。警備員はやっと大人しくなったと思ったらしく「まったく、最近のガキは」と純香の腕を掴んだまま歩きだした。
 次の瞬間、純香は警備員の腕に爪を立て、思いきり引っ掻いた。
「痛ッ」
 警備員の腕の皮が剥けて、赤い線が浮かびあがる。警備員の力がゆるんだ瞬間に腕を振り払うと、股間を力いっぱい蹴り上げてやった。警備員が呻き声をあげる。
「学校、学校って言わないでよ! 行きたくても行けないんだから!」
 股間を押さえてうずくまる警備員の背中を二度、三度と殴りつけた。どんなに強く叩いても効いてなさそうだったが、最初のキックは強烈だったらしく、警備員は「んぐぅ」と四つん這いになり、拳を握りしめた。純香は警備員を殴りつづけた。「あたしは悪くない。あたしのせいじゃない」殴っていると涙があふれてきた。警備員が「わかった、やめろ」と呻いている。しかし純香の耳には届かなかった。うずくまる警備員の頭や背中を拳で叩きつづける。
「おい! やめろ!」
 騒ぎを聞きつけたのだろう、ヴィーナスフォートの建物から別の警備員が走ってきた。四十歳くらいの小太りの男だった。純香は慌てて背を向け、逃げだした。小太りの警備員は途中まで追いかけてきたが、細身の警備員の具合をみるためか、引き返していった。
 歩道を走りながら嗚咽した。やがて息が切れ、走れなくなった。
 誰もいない歩道を泣きながら歩いた。汗でシャツが体に貼りつき、短い髪もシャワーを浴びたあとのようにびしょびしょに濡れていた。頭には「なんで」「どうして」と疑問符が渦巻いていたが答えはなく、涙があふれるばかりだった。とうとう歩くのも辛くなって縁石に腰を下ろし、膝を抱えて泣きじゃくった。どんなに拭っても、涙は止まらなかった。
 人気のない歩道をベビーカーを押した主婦が歩いてきた。主婦は泣いている純香の前を見て見ぬふりをして行き過ぎていった。
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テーマ : オリジナル小説 - ジャンル : 小説・文学



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asagiri

Author:asagiri
日本人の名前のルーツを探ることで日本の歴史を違う角度から見ることができます。家系図づくりをしている人・一族のルーツの探し方がわからない人・祖先の古いお墓がある人はもちろん、自分の名字・姓・氏の由来を知りたい人、家紋や戸籍謄本(除籍謄本)に興味がある人、先祖が武士か農民か知りたい人、珍名・奇名など珍しい苗字を探している人、明治時代好きの人も読んでみてくださいね。家族や親戚との話のネタにもなります。他人の名字でも起源を調べると面白いことがたくさん出てきますよ。調べ尽くしたら苗字研究家に転職できるかも? 苗字の歴史って楽しいです。異説・新情報がありましたら教えてください。

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